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「納品をなくせばうまくいく」を読む

ソニックガーデン社の倉貫さんが「納品しない受託開発」を実践していることは、ネットの情報や知人から見聞きしていた。このように書籍としてまとまったものを読んでみて、「納品しない受託開発」は自分が理想としてきた働き方を実現できる方法に違いないという思いを改めて確認した。いかに多くの予算を獲得し、手離れの良いやり方で納品して売上を回収したら次の案件へ、という従来のやり方ではなく、顧客のパートナーとして、そのビジネスに共感しビジネスの成長に必要なソフトウェアを長期的・継続的に提供する、という「納品しない受託開発」の方法論は、ソフトウェアの開発工程としても無理が無くとても自然体に見える。

考えてみると個人事業としてひとりで開発業務を始めた十数年前の頃は、1件あたりの開発期間が比較的長期に渡るものが多く、期せずして「納品しない受託開発」的な状況が、わずかながらも見え隠れしていたような気がする。しかし、その後は案件の短納期・低価格化が急激に進んで、顧客とビジネス感を共有するよりも、いかに良い条件で受註し短期間で仕上げて案件の数を稼ぐか、ということばかりに目がいってしまい、いつのまにか自ら窮屈な働き方を選択するようになってしまったように思う。そのことを本書が気付かせてくれた。

そこでさっそく自分も「納品しない受託開発」を実践したいところだが、ひとりきりの個人事業という現在の状況で本当に「納品しない受託開発」をできるかどうかは不安なところでもある。本書でも述べられているように、「納品しない受託開発」では基本的にひとりの技術者が顧客に対応するものの、その技術者が所属するソニックガーデン社が組織としてバックアップする。これは顧客から見れば、ひとりきりの個人事業者と取引するよりも遥かに安心できる担保となる。このことは「納品しない受託開発」かどうか以前に、ひとりきりの個人事業の場合にはいつでもついてまわる頭の痛い問題である。自分の場合は、同じような形態で働いている仲間との連携を常に意識しているものの、やはりひとりきりの個人事業では限界があると言わざるを得ない。ここはソニックガーデン社が行っている「ギルド」に参加するのが早道なのだろうか。

ところで、本書はソフトウェア開発という限定された世界に限らず、どのような仕事にもあてはまるであろう素敵な一文があちらこちらに散りばめられている。その中から幾つかを抜粋してみた。

顧客にとっては、ソフトウェアは完成させるだけでは意味がありません。それ以降にどれだけソフトウェアを「使う」ことができるのか、に意味があります。

「納品のない受託開発」ではソフトウェアの完成がゴールではありません。重要なのは、顧客のビジネスを成長・発展させることです。

私たちは、仕事は一生のものだと考えています。自分たちが大切だと思う仕事をずっとやっていきたいし、それはマラソンのようなもので、短距離走ではありません。ですから、一時的に休みなしに働いたとしても、そんなことが長く続けられるわけがないと思っているのです。

同じ価値観の人同士が一緒に働き、顧客とも価値観を共有できる、そんなそれぞれの価値観を実現する小さな会社が数多くあって、様々な人たちがそれぞれ自分に合った会社で働けること、そのことが働く幸せになる。

これらの文章に何かを感じたならば、本書を手にとっても損はないと思う。